今、前川國男を読むことの意味
建築家・前川國男は、「問いかける人」であった。
そして、今、前川國男を読む意味とは、前川が建築家としてのその生涯を通じて問いかけ続けた問いをともに問うことに他ならない。
2011年3月11日。
日本を襲った未曾有の大震災は、高度成長期以来、疾走し、膨張を続け、その表層の繁栄に浮き足立った僕たちの足元にいつのまにか拡がっていた巨大な虚空を暴いてみせた。
建築界ばかりでなく、僕たちを取りまく、ありとあらゆる世界がその根底から「問いかけ」を迫られることになったのである。
しかし、僕たちはここでたじろいでいてはならない。
生き残った以上、生きるに値する生を生き、子どもたちに残すべき世界をめざし、歩み続けなければならない。
そして、その時、ともに歩むべき「同伴者」として、前川國男がいる。
前川國男は半世紀も前から、現代文明の繁栄の底に拡がる闇を、鋭く問いかけていた。当時、その問いかけに耳を傾けるものは多くはなかったはずだ。しかし、今こそ、僕たちは前川の問いを、しっかりと受け止め、ともに問いかけながら歩んでいこう。
その先にどんな世界が拡がるか。それは分からない。けれど、少なくとも明らかなのは、今、僕たちが問いかけるべき問いに半世紀も前に気づき、全身全霊でそれを問いかけながら歩んだ先人がここにいるという事実である。そして、手元にその著作を開きさえすれば、その歩みをともに歩むことができるということだ。
ここに、建築家・前川國男、および、編集者・宮内嘉久の合作というべき代表的な著作、『一建築家の信條』、『前川國男―コスモスと方法』を、電子書籍という新しい衣のもとにお届けします。
皆さまにとって、これらの書籍が「新しい世界」への同伴者となることを祈念します。
2011年9月
坂田 泉
建築家・『虹プロジェクト』